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『コメ・ショック』から今回は、今話題の本『コメ・ショック』（鈴木宣弘著、経営科学出版）から紹介させていただきます。 すでに訪問者の方々は、日本が戦後、一貫して食の自給に関して攻撃を受けてきたことはご存知だと思います。 日本人の主食は古来より、米でした。 ところが私は物心がついた小学校から、給食はパンと脱脂粉乳を食べさせられた世代です。日本人が、食への攻撃を受け始めた最初の世代と言えるかもしれません。 強制的な食生活の変化と共に、日本人の洗脳も行われました。 １９５８年、慶応大学の林髞（たかし）医学部教授は著書『頭脳−−才能をひきだす処方箋』（光文社：３０万部のベストセラー）で、「米を主食にする民族は頭脳の発達が遅れる」という説を主張しました。これは「米を食うとバカになる」という言葉で、広く日本人に知られることになりました。もちろん全く科学的な根拠はないものです。 食の自給は独立国家にとって命綱です。 その命綱の食が自給率３８％（カロリーベース）となってしまい、まさに風前の灯となったのが今の日本の姿です。 最後に残されたのが日本人の主食である米ですが、その米も長期間に渡る攻撃に晒されてきました。 １２５２万トンを生産した１９７０年から始まった政府の減反政策により、今年（令和７年）は７００万トンです。それでも自給率１００％はなんとか維持していますが、農業従事者の高齢化と跡継ぎ不足により、あと５年が限界と言われています。 そして最後の止めを刺そうと、精力的に食に関する国民への洗脳が行われている最中です。 鈴木宣弘氏は、『コメ・ショック』の中で、「日本の農業を弱体化させた七つの嘘」と題して、７つの嘘を科学的な根拠を挙げて論破していますが、それがこの本のメインだと思います。 ここでは、その項目のみ挙げさせていただきます。 ・「嘘その１」「日本の農家は保護されすぎている」 ・「嘘その２」「農協が米価格を釣り上げてきた」 ・「嘘その３」「大規模化・集約化で競争力強化」 ・「嘘その４」「減反政策は２０１８年に廃止された」 ・「嘘その５」「輸出拡大で供給能力向上」 ・「嘘その６」「農協を通さなければならない」 ・「嘘その７」「スマート農業とイノベーションで解決」 訪問者の方々も、これらの項目のうちいくつかを聞いたことがあると思います。 私は上記の項目の全部を聞いた記憶があります。 私は、このうちいくつかは本当だと思っていました。しかし、本を読んでみて全部嘘だとわかりました。これらはすべて、日本の農業を本気で潰そうとする勢力によるプロパガンダでした。 最初、ここでは上記の嘘を鈴木宣弘氏が論破する様子をいくつかを紹介しようと思っていたのですが、それはまたの機会にしようと思います。 危機的な状況であっても、私たちにできることがあるという話の方が大事だと思ったのです。 ここでは、日本の農業を破壊する動きに対し、一般庶民が立ち上がった事例を紹介させていただこうと思います。 ・・・＜『コメ・ショック』、ｐ１９１〜ｐ１９５から抜粋開始＞・・・ 全国で広がる希望の灯火 ここまで、日本の農業が直面する危機を論じてきた。しかし、絶望の淵に立たされながらも、新しい道を切り拓こうとする人々がいる。国が農業を見捨てようとする中で、市民が、自治体が、立ち上がっている。その希望の灯火を、最後に紹介したい。 和歌山の母親たちが起こした小麦革命 ２０１９年７月、一本の電話が和歌山市の満留澄子さんのもとに入った（管理人注１）。 「農民連の食品分析センターが学校給食のパンを検査したら、輸入小麦のパンからグリホサートという残留農薬が検出されたよ。発がん性があると言われている農薬だよ」 グリホサートは、除草剤「ラウンドアップ」の主成分である。アメリカやカナダでは収穫前の小麦に散布され、乾燥を早めて収穫効率を上げる「プレハーベスト」という農法が一般的だ。その結果、輸入小麦にはダリホサートが残留する、国際がん研究機関（IARC）は、この成分を「おそらく発がん性がある」と分類している。 衝撃を受けた満留さんは、すぐに和歌山県学校給食会に問い合わせた。 「残留農薬のこと、ご存知でしたか？」 答えは「僕らも知らなかった。国が輸入しているから疑ったことがなかった」。 「国産小麦に変えると値段はどうなりますか？」 「２倍から２倍強になってしまう。給食費が高くなるよ」 「安全な小麦が確保できるまで、全米飯給食にしてほしい」 「給食は地域のパン屋の経営も支えている。パンの回数を減らすのは、パン屋を減らすことにつながるので避けたい」 「じゃあ米粉パンは？」 「製粉所が和歌山県にないので大阪の工場に出している。輸送費もかかるしＣＯ２排出量も増える」 そんな中、学校給食会の担当者がふと漏らした言葉があった。 「地産地消率を上げるように国から言われているけど、和歌山はみかんとか、梅とか、果樹が盛んで給食のおかずにはならんでしょ。主食を変えたら大きく変わるとは思うけど、和歌山で小麦栽培は難しいと言われているし……」 それを聞いて、後にプロジェクトの代表となる仲間が言った。 「でも、耕作放棄地はいくらでもありますよね」 担当者の目が輝いた。 「和歌山で小麦つくったらニュースになるよ？ つくるかい！？」 この一言が、すべての始まりだった。 ２０２０年６月、満留さんら母親三人は「給食スマイルプロジェクト〜県産小麦そだて隊！」を立ち上げた。アドバイザーとして力を貸してくれたのが、和歌山県農民連の貴志正幸さん。すでに有機小麦を栽培していた貴志さんは、「技術が進歩し、収量のある品種が出てきた」と心強い言葉をくれた。 海南市で十年近く放置されていた耕作放棄地を借り、農業経験ゼロの母親たちが小麦栽培を始めた。種まき、麦踏み、収穫−−すべてをイベント化し、親子連れを呼び込んだ。ＳＮＳで発信し、毎回数十人が集まった。 驚くべきことが起きた。まだスマイルの畑に種もまいていない２０２０年６月、貴志さんの畑で収穫された小麦を使って、おそらく県内初となる県産小麦１００％の給食パンが、貴志さんの地元の小学校で六回提供されたのだ。外国産小麦が１キロ７０円なのに対し、貴志さんの小麦は最低でも十倍以上の価格。その差額は学校給食会が負担してくれた。 このニュースがメディアで報じられると、「うちも小麦を作りたい」という農家が次々と名乗りを上げた。一年目で四軒、二年目以降はそれぞれのつながりで広がり、現在は約十軒の生産者が参加している。 県産小麦のパンが提供される学校数は、一年目の３市町８６校から、三年目には１３市町約３万６０００食にまで拡大した。 「補助事業に詳しい人のアドバイスが得られたことも大きかった」と満留さんは振り返る。 「農業農村活性化支援モデル事業」の対象となり、三年間で１００万円の補助金を獲得。農機のレンタル料や講師代、イベントの経費に充てることができた。 農業素人の母親たちが、子どもの食を守りたいという一念で、耕作放棄地を蘇らせ、行政を動かし、農家の輪を広げた。この「和歌山モデル」は、消費者が生産者になり、地域を変えるという、新しい農業運動の可能性を示している。 ・・・＜抜粋終了＞・・・ （管理人注１）満留 満留は、「みつどめ」「みつとめ」「みる」という３つの読み方があるようです。 もう一つ、紹介します。 ・・・＜『コメ・ショック』、ｐ１９５〜ｐ１９７から抜粋開始＞・・・ 「一俵２万４０００円」が変えた町 千葉県いすみ市、房総半島の南東部に位置するこの町で、学校給食を核にした農業再生が進んでいる。 きっかけは、市長の決断だった。化学肥料や農薬を原則使わない有機米を、一俵（６０キロ）２万４０００円で買い取ると宣言したのだ。 当時の生産者米価は一俵１万円を下回る水準。２万４０００円という価格は、その二倍以上である。「これなら作れる」と、農家たちが有機栽培に挑戦し始めた。 最初は苦労の連続だった。化学農薬を使わなければ、田んぼは雑草だらけになる。除草剤に頼っていた農家には、対処法がわからない。 市は有機農業の専門家を招いて研修を実施した。合鴨農法、紙マルチ、チェーン除草−−様々な技術を学び、試行錯誤を重ねた。四年ほどで軌道に乗り、２０１７年、市内すべての小中学校で１００％有機米の給食が実現した。野菜もかなりの部分が有機に切り替わっている。 その効果は、農業だけにとどまらなかった。 「子どもが元気になる」という評判が広がり、いすみ市は移住先としての人気が急上昇。 『田舎暮らしの本』（宝島社）が発表する「住みたい田舎ベストランキング」２０２４年版で、首都圏エリア第一位に輝いた。若い世代の移住が増え、農業の担い手確保にもつながっている。 このいすみ市の成功に触発されたのが、京都府亀岡市だ。 私が講演会で「いすみ市は一俵２万４０００円で有機米を買い取っている」と紹介したところ、亀岡市長がその場で立ち上がり、こう宣言した。 「いすみ市が２万４０００円なら、亀岡市はその倍、４万８０００円で買い取る」 会場から拍手喝采が起こった。 身近な地元で給食という「出口」をしっかり作り、適正な価格で買い取り、なによりも子どもたちの健康を守る。それは地域循環の仕組みを作るうえでも大きな鍵になる。 いすみ市や亀岡市のような取り組みは、全国に広がりつつある。茨城県常陸大宮市ではモデル地区を中心に有機栽培を促進し、２０２３年に「オーガニックビレッジ宣言」を発信。有機農産物の生産から消費までを地域全体で回す体制づくりが始まっている。 ・・・＜抜粋終了＞・・・ 和歌山市といすみ市の活動は素晴らしいと思います。 こうした活動が全国に広がっていくことを願わずにはいられません。 ・・・＜『コメ・ショック』、ｐ１９７〜ｐ２００から抜粋開始＞・・・ 「コメサミット」−−生産地と消費地をつなぐ 大阪府泉大津市。人口約７万２４００人のこの都市が、日本の農業に新しい風を吹き込もうとしている。 南出賢一市長は、食料安全保障の危機を真正面から受け止め、独自の行動を起こした。２０２３年から小中学校の学校給食用に、全国の農家から直接コメを調達するルートを構築。 妊婦へのコメ無料配布、児童が生産地を訪れる農業体験事業など、「出口」を次々と広げてきた。 泉大津市には農地がほとんどない。だからこそ、生産地との連携が不可欠だった。 北海道旭川市との間では、全国初となる「生産地×消費地」による「オーガニックビレッジ宣言」を実施。旭川市の有機農産物を泉大津市が買い支え、関西圏への販路を開く。生産者にとっては安定した出口、消費者にとっては安全な食料の確保という、双方にメリットのある関係を築いた。 この取り組みを全国に広げようと、泉大津市は２０２６年の「コメサミット」設立を目指している。正式名称は「コメがつなぐ自治体間農業連携首長協議会」。生産地と消費地が手を携え、コメを起点に日本の「食と農」の未来を構想する場だ。 ２０２５年８月、その準備会議が開かれた。参加したのは１６の自治体。北海道旭川市、青森県五戸町、神奈川県鎌倉市、長野県南箕輪村、滋賀県野洲市、滋賀県東近江市、滋賀県日野町、大阪府泉大津市、大阪府高石市、兵庫県稲美町、和歌山県かつらぎ町、和歌山県日高川町、岡山県吉備中央町、高知県香南市、熊本県人吉市、沖縄県石垣市、北海道から沖縄まで、生産地と消費地が一堂に会した。 農林水産省もオブザーバーとして参加している。国の農政に失望した自治体が、自ら連携して食料安全保障の仕組みを作ろうとしている。その動きを、国も無視できなくなっているのだ。 同日開催された市民公開シンポジウムには、会場とオンラインを合わせて約２５０人が参加。参加者からは「今、日本人にとって一番重要なお話を聞くことができた」「毎日口にしている米について、あまり危機感なく過ごしていたが、自分事として考えていきたい」といった声が寄せられた。 大阪府高石市は、２０２６年度から学校給食のコメの一部を泉大津市のルートで調達することを決めた。消費地同士が連携し、生産地を支える。この動きが全国に広がれば、日本の農業の風景は変わり得る。 飢えるか、植えるか 本書で見てきたように、日本の農業は崖っぷちに立っている。 稲作農家の平均年齢は６９歳。「あと五年でここでコメを作る人がいなくなる」と漏らす地域が、全国で続出している。にもかかわらず、国は農業予算を削り続け、「規模拡大とスマート農業で何とかなる」という空論を繰り返している。 しかし、和歌山の母親たちは、耕作放棄地を蘇らせた。いすみ市は、有機米で町を再生させた。泉大津市は、都市部から農村を支える新しいモデルを示した。 国がやらなくても、私たちにはできることがある。 地元の農産物を買い支える。学校給食を有機に変えるよう自治体に働きかける。あるいは、自ら耕作放棄地を借りて農業を始める。 「飢えるか、植えるか」 これは、私たち一人ひとりに突きつけられた問いである。 子どもたちの未来のために、私たちは「植える」という答えを選びたい。 本書が、その一歩を踏み出すきっかけになれば幸いである。 ・・・＜抜粋終了＞・・・ 繰り返しますが、国は意図的に日本の農業を潰そうとしてきました。 数十年に渡った攻撃で、日本の農業は青息吐息の状態に陥ってしまい、いまや止めを刺される寸前まで来てしまいました。 食は命に直結します。 やられっぱなしでいいのでしょうか。 「飢えるか、植えるか」 言い得て妙だと思います。 （２０２５年１２月２７日） |
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